「子どもに土地を残したいけど、生前に贈与すべき?それとも相続で渡す方がいいの?」
地主さんからよくいただくご相談のひとつです。
結論から言えば、一概に「生前贈与が得」「相続が得」とは言えません。
しかし、地主という立場ならではの特徴を踏まえると、向いている選び方や注意点が見えてきます。
この記事では、生前贈与と相続の違いや、地主にとってのベストな選び方についてわかりやすく解説します。
生前贈与と相続の違いとは?
まずは、基本的な違いをおさらいしておきましょう。
タイミング・手続き方法・節税効果の違いなどを贈与と相続で比較してみました。
項目 | 生前贈与 | 相続 |
タイミング | 生きているうちに財産を渡す | 死後に財産が引き継がれる |
課税 | 贈与税がかかる | 相続税がかかる |
手続き | 贈与契約・登記などが必要 | 遺産分割協議・登記など |
税率 | 高め(110万円を超えると課税) | 課税枠が大きく、控除も多い |
一見すると、相続の方が税制面で有利に見えます。
ただし、生前贈与にもさまざまな特例があり、上手に使えば節税につながることもあります。
地主が生前贈与を使うメリット
1. 土地を早めに子世代に渡して管理を任せられる
高齢になると、土地の管理や賃貸の契約、税務対応などが負担になります。
生前贈与で子や孫に不動産を渡しておけば、早い段階で管理責任を移行できるのが大きなメリットです。
2. 相続時のトラブル防止になる
土地は分けにくいため、相続の際に**「誰がどの土地をもらうか」で揉めやすい**ものです。
生前に計画的に贈与しておけば、分配をめぐる争いを減らすことができ、家族の関係も保ちやすくなります。
3. 特例を使えば贈与税を軽減できる
地主が活用しやすい贈与の特例には、次のようなものがあります:
相続時精算課税制度:2,500万円まで贈与税がかからず、将来の相続時に精算
住宅取得等資金の非課税制度:土地を渡すことで活用できるケースも
配偶者控除(贈与):婚姻期間20年以上の夫婦間で、2,000万円まで非課税
上手に活用すれば、贈与税の負担を大きく抑えることが可能です。
生前贈与の注意点:デメリットも理解しておこう
もちろん、生前贈与には次のような注意点もあります。
贈与税は相続税より高率
110万円を超える贈与には高い税率がかかるため、**毎年小分けに贈与する「暦年贈与」**がよく用いられてきました。
ただし、令和6年(2024年)以降は税制改正により、「相続前7年以内の贈与は相続財産に加算」されるなど、制度が変わりつつあります。
不動産贈与には名義変更費用・登録免許税・不動産取得税がかかる
土地や建物の贈与は、登記費用や登録免許税(固定資産税評価額の2%)、**不動産取得税(原則4%)**などがかかります。
現金の贈与と違い、思った以上に初期コストがかかる点に注意が必要です。
贈与後は取り戻せない
一度贈与してしまった財産は、原則として取り戻すことができません。
将来の生活費が不足するリスクがある場合は、慎重に判断すべきです。
相続のメリットと、地主にありがちな落とし穴
では、あえて贈与せずに相続で渡す場合はどうでしょうか。。
相続の主なメリット
基礎控除が大きい:3,000万円+600万円×法定相続人の数
土地には評価減が使える:小規模宅地等の特例(最大80%評価減)など
税率は贈与税より低い
地主の場合、土地の評価を下げる特例を活用すれば、相続税の圧縮につながります。
ただし「土地が多い=相続税が高くなる」ケースも
相続時に「たくさん土地があるのに現金が足りない」状態だと、相続税の納税資金に困る可能性があります。
また、相続後に兄弟間でもめるケースも多く、分けにくい不動産こそ早めの対策が重要です。
地主に向いている選び方とは?
ここまでのポイントを踏まえ、地主にとっての選び方をまとめます。
状況 | 向いている方法 | 理由 |
節税重視 | 相続+特例活用 | 評価減を使った圧縮が有効 |
納税資金が不安 | 早めに売却や分散が可能 | |
子に経営を任せたい | 生前贈与 | 管理権限を早期移転できる |
揉め事を避けたい | 生前に分配 | 意思を反映した分け方ができる |
どちらか一方を選ぶのではなく、「相続を基本に、一部を生前贈与する」というハイブリッド型の対策が、地主にとっては現実的で効果的です。
まとめ:贈与か相続か迷ったら、まずは棚卸しを
生前贈与と相続、どちらが得かは人それぞれです。
ただ地主の場合、
・不動産の価値が高い
・分けにくい資産を多く持っている
・納税資金の準備が大変
といった事情があるため、早めに財産の棚卸しをし、計画的に進めることが何より大切です。
まずは税理士や相続の専門家に相談しながら、「今できる対策」から取りかかってみましょう。
“争族”を防ぎ、大切な財産を未来へつなぐために。